聖地巡礼 『美栄』
首里の伝統を受け継ぐ料理を出す数少ない店「美栄」。名店中の名店で、県産食材と工芸品に携わる私にとってまさに憧れのお店だ。琉球漆器の「東道盆(トゥンダーブン)」に盛られた琉球料理、順に運ばれてくる料理は、どれも洗練され気品に満ち溢れた素晴らしいものばかりである。
沖縄にルーツを持つノンフィクションライター、与那原恵さんの『わたぶんぶん わたしの「料理沖縄物語」』にも、この「美栄」が登場する。「登美さんの料理は金城の士族の血がなければ生みだせないものだった。盛りつける皿も、沖縄の焼き物、黒や赤の漆器、酒器も凝ったものを使った。」とその様子が描写されている。
どの料理も深い味わいだが、とりわけラフティー(三枚肉の角煮)は、手間暇を惜しまない職人技から生まれた、家庭では真似のできない美味しさだ。
「ふたをとったときに、甘く濃密な匂いがただよう。豚そのもののかおりだったのだろう。そして口に入れると、まず皮のモチッとした感触があって、肉のほろっとした舌触りがあって、さいごにあぶらみがとろけるように喉にすべってゆく」(『わたぶんぶん』より)
美栄の設計は、京都出身の女性芸術家によるもの。贅沢な造りというよりは、とても丁寧に意匠が施されており、心地よく過ごせる佇まいのある空間だ。
「建物は赤瓦をのせた木造二階建てだ。ぜんたいに沖縄ふうではあるけれど、そこかしこに和風の意匠、洋風のモダンなデザインがちりばめられてある。」(『わたぶんぶん』より)
「美栄」を創業したのは与那原さんの祖母で、2代目の店主で1972年に第1回ベストドレッサー賞を受賞した古波蔵保好氏は、祖母の兄、つまり大伯父にあたる。『わたぶんぶん』のサブタイトルにある「料理沖縄物語」は大伯父・古波蔵氏の同名の名著に由来している。
琉球料理の魅力を存分に感じたい方は、機会があればぜひ美栄を訪れてほしいし、この二冊を読んでから行くと、また違った感動が味わえるだろう。「料理沖縄物語」は未読だが、今度読んで、また「美栄」に行くのを楽しみにしている。