お前んとこ、潰れたのか?
取引のある工房のEさんは、ことあるごとにウチの店を潰そうとします。
職人らしく、いつも気難しそうに工房の奥に陣取り、じっくりコチラを見すえて発する問いはまるで禅問答のよう。
窯出ししたばかりの器を手にとって
「なんでこの色になるか知ってるか?」とはじまります。
私が返答に困っていると、
「お前は何も知らないね。もうこの仕事辞めたほうがいいよ」とニコッ。
「待ってくださいよ、スタッフと一緒に頑張ってるんですよ」
と悲鳴にも近い私の言葉をを聞くと、
「まぁ、他の連中もそんなもんよ」と満足そうにケタケタ笑います。
Eさんはいつもこうした問答を挨拶代わりに、窯出ししたばかりの器を見せてくれます。
そんなある日、Eさんから「お前んとこ、潰れたのか?」と急に電話がかかってきました。
びっくりして「どういうことですか、誰がそんな噂してるんですか?」と聞いたら、ここ最近、何度か私の事務所の前を通った際にシャッターが降りていたから、とのことでした。
うちの事務所は夏場には容赦なく西日が差し込んできて、エアコンではどうにもならないくらい壁や窓が熱を帯びてしまうのです。窓に一番近いスタッフの比嘉さんは「座ってられません」と事務所の奥に避難してしまうほど。
「そんな状況ですから思い切って今年の夏はシャッターを降ろしっぱなしにするようにしたんですよ」と説明すると、Eさんはまたケタケタ笑いながら「そういうことか。病気にでもなって寝込んでるのかと思ったよ」と言うやいなや、プツッと電話を切ってしまいました。
そう、なんだかんだ言ってEさんは、いつも私のことを気にかけてくれる面倒見のいい大先輩なのです。