床屋難民

私の知人に、旅先で見つけた風情のある床屋にふらりと立ち寄り、髪を切ることを楽しみにしている方がいます。一期一会の出会い、普段は聞けない、その店、その地域ならではの話を聞けるのが醍醐味なのだそう。面白い話も聞ける上に、多少緊張感はあるものの、おおむね綺麗に髪を整えてもらえる。めちゃくちゃコスパの良いエンタメみたいなもんですよ、とその人は言います。洒落てるなと思います。私もいつかトライしたいと感化されてはいるものの、まだ実行に移せていません。
私もそんな大人の嗜み、「行きつけの店」を持とうと、自宅から徒歩圏内に新しくオープンした理髪店に勇気をもって足を運んでみることにしました。
お店の外見はクラシカルな雰囲気のある「ちょいワル」風なバーバースタイルで、スタッフもタトゥーがびっしり入った強面ですが、お話しするととても親切で丁寧な接客の好青年です。
彼は新婚旅行で初めて海外を訪れて以来、すっかり旅の魅力に取りつかれ、今では年に何度も海外に行くようになったそうです。
私も昔はバックパッカーとして各地を旅していた経験がありますが、起業してからは海外旅行の機会が減っていたので、彼から旅の話を聞くのは癒しの時間でした。そしてバックパッカー時代のエピソードを話すと、彼も興味深そうに耳を傾けてくれ、ちょっとだけ敬ってくれている気がして気分が良くなります。
彼が年末に奥様と一緒にタイのチェンマイを訪れるというので、現地に住んでいる大学時代の友人に久しぶりに連絡を取ってみました。友人は現地で日本企業とタイ企業をマッチングさせる仕事や、通訳の仕事をしており、とても充実した生活を送っているようでした。
友人は「チェンマイはこの10年で本当に変わったよ。おしゃれなカフェが増えて、街全体がモダンな雰囲気になってきたんだ」といい、おすすめのスポットや美味しいお店の情報をたくさん教えてくれました。
その情報を理髪店の彼に伝えると、「ありがとうございます!ぜひ訪れてみます」と喜んでくれ、会話がさらに弾みました。髪を整えてもらいながら、旅の話で盛り上がる時間は、日常の喧騒を忘れさせてくれる貴重なひとときでした。
思えば、約15年前に訪れたカンボジアで、現地の床屋で髪を切ってもらったことがありました。言葉も通じず、ジェスチャーで希望のスタイルを伝えた結果、思いがけず個性的な髪型になってしまいました。鏡に映った自分の姿に驚きつつも、床屋のお兄さんとお互いに見つめ合い、半笑いになったのを懐かしく思い出します。
新しい出会いを求めて、また大人の嗜みとして、自分だけの特別な「行きつけの店」を増やしていきたいですね。