藤井さんのこと
那覇での商談があったりした時は、帰りの道すがら沖映通りにある「ジュンク堂書店那覇店」に立ち寄るのがルーティーンになっています。
ジュンク堂が入っている建物は、以前はダイナハ(ダイエー那覇店)という大型ショッピングセンターで、中学生の頃そこでカツアゲされた苦い思い出がよみがえります。
そして書棚に並ぶ著名なノンフィクションライターの藤井さんの本を見ると、藤井さんとのほろ苦い出会いの記憶もよみがえってきます。
当時私は東京で建築を学び、沖縄に戻ってきて、先輩と一緒に国際通りの「國映館」跡地利用のコンペに参加している頃。その先輩に「ちょっと急ぎの案件があるから手伝ってほしい」と言われて連れて行かれたのが、藤井さんが沖縄に持っているアトリエ兼住居でした。
先輩は着くなり「至急壁にL字鋼で棚を作って」とインパクトドリルと材を私に渡してきました。
「目印になる墨とか打たないと曲がりますよ」と言っても、
「時間ないからこんな感じで」
と、適当に2、3個取りつけて見せて、先輩は他の作業に行ってしまったのです。
取り残された私。できる限り曲がらないように頑張ってはみたものの、棚は案の定ゆがんでいて残念な仕上がりに。戻ってきた先輩は笑いながらOKサインを出していますが、果たしてこれでよかったのか、モヤモヤが残ります。
それから数日経って、先輩に「先日の手伝いのお礼に飲みに行こう」と、藤井さんのアトリエに連れて行かれました。しかも今回は施主である藤井さんがご在宅でした。
私は学生のころに藤井さんの本を何冊か読んでいたので、ご本人に会えたことにただただ感銘を受けて、「本を読みました」と下手な感想をお伝えするのが精一杯。
著名人の家で一緒にお酒を飲んでいるという非日常に浸っていると、やにわに先輩が
「この棚、彼が取り付けたんですよ」と笑顔で藤井さんに言ってしまったのです。
いやいや、これは……と、色々説明させてほしくはありつつも、ゆがんだ棚を作ってしまった申し訳さでいっぱいになっていると、藤井さんは
「いいね、垂直がない家ってのは。酔っ払いにちょうどいい」と笑ってくれたのです。
人間がデカイなと、感動した夜でした。
でもどんなに急かされても、仕事はおろそかにしないと心に誓った夜でもありました。