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徳元佳代子 | 島やさいを通じて

徳元佳代子 | 島やさいを通じて

「一番の弱みだと思っていたことが強みになったんですよね」と語るのは、野菜ソムリエ上級プロの徳元佳代子さん。沖縄の伝統的農産物「島やさい」の素晴らしさを伝えるために、料理教室、クッキングショーや講演、イベント講師、テレビやラジオへの出演など多忙な日々を過ごしている。

 

 

 そんな徳元さんが語る「弱み」や「強み」とは、いったい何だろうか。

 鹿児島で生まれ、神奈川に実家を持つ。結婚を機に沖縄にやってきたのは1982年のこと。夫は糸満の農家の長男で、夫の両親や祖父母、きょうだいたちという大家族での生活が始まった。

 20代から50代までの日々を「旅館の女将より忙しかった」と振り返る。家族の世話や食事の準備にはじまり、病気の義父と全盲で寝たきりの祖母の介護、そして畑の手伝いと、朝早くから夜遅くまで働き、睡眠は1日わずか2~3時間程度だったという。その影響か、徳元さんは現在でもショートスリーパーだ。

 ある日、たまたま地域の健診で病気が見つかった。発見が早かったとはいえ、生存率の低い悪性のがんである。ショックを受ける一方で、「それまで休む暇もなく過ごしてきたので、これは天がくれた休暇かもしれない」とも思ったという。

 

 

 自身の病気と向き合いながら治療を行い、どうにか克服することができたものの、徳元さんはこれまでの生活を強く反省することとなった。忙しさにかまけて食事の時間も不規則、おにぎり一個だけで野菜も食べない偏った食生活。子供たちはまだ中学生や高校生だ。このままではいけない、もっと長生きしなくては。生活を見直す決心をした。

 その時に目を向けたのが、農家である自分にとっては身近な「島やさい」=沖縄の野菜だった。健康の源は食べること。徳元さんは野菜の栄養や食べ方などについて猛勉強を始めた。「自分にとっては生きるか死ぬかの問題ですから覚悟が違う。猛烈に勉強しました」という。

 そして徳元さんは野菜ソムリエの資格を取った。野菜ソムリエとは、野菜・果物の知識を身につけ、そのおいしさや楽しさを理解し伝えるスペシャリストの民間資格である。さらに2011年には九州・沖縄地域で初めての「上級野菜ソムリエ(野菜ソムリエ上級プロ)」の資格を得た。

 2011年、自宅の倉庫を改造し「ベジフルマンマ」を創立、野菜やくだものをたくさん使った愛情料理を広めるための活動を本格的にスタートさせていく。

 起業してみて分かったことがある。20代から寝る間もないほど励んだ農業や家事、そしてがんを患って治療したという経験を、自分では「弱み」だと思っていたが、仕事をする上では「強み」になっていたということだ。

 「料理のプロではないけれど、大家族の料理を作ってきたので大鍋料理などもこなせたし、生産者の立場でもあり、病気の当事者としての経験もあって健康の大切さも知っている。これまで自分にとってマイナスだと思っていたことが、逆にこの仕事をやる上で利点となったんです」という。

 徳元さんの熱心な活動はさらに実を結び、2013年、野菜ソムリエとしての活動を評価する「日本野菜ソムリエアワード」において日本一に輝いた。名実ともに野菜ソムリエの頂点である。その華々しい業績は、県内外のマスコミでも大きく取り上げられることとなった。

 

 

 さまざまな活動のうち、やはり特筆すべきは「島やさい」の裾野を広げる活動だ。沖縄の伝統的農産物は抗酸化力が高く、健康長寿には欠かせない存在だが、「島やさいはおいしくない」というイメージも根強かった。そうした状況を変えるため、徳元さんは2016年にオリジナルのレシピ本『からだにやさしいおきなわ島やさい』を出版した。野菜ソムリエの比嘉淳子さんとの共著で、ゴーヤーに島らっきょう、ニガナ、ターンムなど28種の島やさいをおいしく栄養たっぷりに食べるレシピを提案して話題を呼んだ。

 スポーツキャンプが多数行われる沖縄でアスリート食の重要性に着目し、「アスリートフードマイスター」1級の資格も取得。調理や製菓の専門学校でアスリート食に関する指導をおこなっている。

 さらに年々増加するインバウンド観光客に向けて、ワークショップなどで海外へ沖縄の食文化の良さを広めていきたいと考えている。実際に外国人観光客に沖縄の島やさいを調理して食べてもらえるよう、那覇空港近くに事務所を借りて準備中だ。

 活動は国内にとどまらず、定期的にシンガポールへ出向いて沖縄の島やさいの魅力を伝える活動を続けている。シンガポールで人気なのが、意外にも「ニガナの白あえ」だったという。いつか島やさいは沖縄だけの宝ではなく、世界の宝になるかもしれない。

 朝は4時前に起床して欠かさず食事の準備をする。「特に凝ったものではなく、ある材料でパパッと作るだけなんですよ」と謙遜するが、SNSにアップされた写真からは、品数が多く彩りも美しく、もちろん栄養面も申し分ないことが一目で伝わってくる。

 自分がやりたいことができる生活は充実感でいっぱいだ。忙しいのは以前と同じなのに、なぜか全然疲れることがない。「仕事が好きで、どこへ行ってもいつも仕事のことを考えているんですよ」と笑顔がこぼれる。

 島やさいを通じて沖縄の食文化を世界へ広めていく夢はこれからも続く。

 

A、My Favourite(わたしのお気に入り)

 わが家には東道盆がありますが、これは結婚30年の記念に夫に買ってもらいました。琉球漆器なので我が家の財産として伝えていければと思っています。私は自由にいろいろなものを入れて使うのが気に入っています。

 

B、My Worktools(わたしの仕事道具)

 フルーツカッティングとは専用のナイフを使ってフルーツや野菜を切り分け、見た目も華やかにする技術です。その際に欠かせないものがカッティングナイフ。これまで何本も持っているのですが最近購入したこのナイフは見た目は地味だけど切れ味は抜群。以前だったら見た目も華やかなナイフを購入していたかもしれないけれど、今は中身重視で買っています。

 

C、My Backyard(わたしのバックヤード)

 化粧品も洋服も興味がない私ですが、リサイクルショップを見るのは好きです。やっぱり手に取るのは食器などの器が多いです。仕事柄、食器はいくらあっても足りないぐらいなので、気に入ったものがあれば購入することもあります。

徳元佳代子(とくもと かよこ)

沖縄・九州エリア初のシニア野菜ソムリエ(2011年認定)。第2回野菜ソムリエアワード金賞受賞(2013年)。日本野菜ソムリエ協会認定地域校・糸満教室主宰。沖縄県糸満市にてブロッコリー、キャベツなどアブラナ科野菜の生産の傍ら、ベジフルマンマを設立し、収穫体験、食育、野菜果物の紹介や解説、食べ方の提案、予防医学、アンチエイジング、沖縄行事料理などに取り組む。沖縄食材スペシャリスト、がんの統合医療アドバイザー、アンチエイジングセルフケアアドバイザーなど数々の資格を取得。島野菜・県産果実の魅力を世界へ発信している。

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