福田八直幸 | 音を鳴らすために
「三線は触って弾いてあげるのが一番だと思います。音を鳴らすために生まれてきたものだから」と語るのは、福田八直幸さん。戦前につくられた古い三線の愛好家であり、「胴巻屋」の屋号で、三線の胴のまわりを包む付属品、「胴巻(ティーガー)」のオリジナルデザインと製作、古い三線の修理などを手掛けるとともに、三線の演奏家として、シンガーソングライターとしての活動も行なったりしている。
40歳という年齢ながら三線にどっぷりと浸っている福田さんだが、子どもの頃から三線との関わりが深かったわけではないという。奄美大島出身の両親は全く三線とは縁がなく、福田さん自身も両親の経営するスナックで流れてくる歌謡曲などを聞いて育った。
コザで生まれ育ち、年頃になるとロックが好きになった。ギターを弾き始め、学校を卒業したあとはイギリスやアメリカに行きたいと思っていた。だが、ロックを聴きながらも心の奥底には、「これは自分のものではない」という違和感があった。では、自分のものとは何か。自問を重ねるが、沖縄について自分は何も知らない。ただ、三線を学ぶことにより、この島がひきついできたスピリッツを学べるような気がした。
それまで三線とは縁がなかったと思い込んでいたが、記憶をたどってみるとあることを思い出した。3歳から5歳ごろ、家業が忙しく預けられていた叔父の家で、毎日のように叔父の弾く三線の音色を聴いていたのである。それは決して気取ったものではなく、手近にある楊枝などでつま弾かれる奄美大島の歌だった。叔父はメジロ勝負や麻雀が好きな趣味人で、亡くなってあと、福田さんは形見として三線をもらいうけた。叔父の三線は県外へ出稼ぎに行くときにもたずさえて行ったといい、叔父の存在
が、「三線がかっこいい」「心地よい」と思う原点だったかもしれない、と振り返る。
やがて出稼ぎで資金を貯めた福田さんは、帰郷してゼロから三線音楽の勉強を始めると同時に、三線の製作にも興味を持つようになった。何も知らない若者を雇ってくれる所はなかなかなかったが、三味線店に無理を言って雇ってもらい、無我夢中で三線の勉強と修行に励んだ。
三線漬けの日々の中、福田さんはやがて古三線の魅力に取りつかれていくこととなる。
古三線には謎が多い。例えば、「古い三線の芯の部分にはヤスリの跡が残されているものが多い」というが、何のためにそうなっているのかは不明であった。古三線にはまとまった文献もなく、さまざまな説を検証してみたもののどれも納得のいくものではないし、誰に聞いても明確な答えは出てこなかった。福田さんは独自に調査・研究を重ね、古三線と古い短剣とのあいだに共通点を見つけ出し、三線に込められた深い精神性を確信するに至った。
2020年、福田さんは自身で調べ上げた三線論を『古三線に魅せられて』のタイトルで出版した。書籍は県内外から大きな反響を呼び、たちまち品切れに。その後、2024年には古三線にまつわる不思議なエピソードを追加した増補版が刊行された。
現在、福田さんは20丁ほどの古三線を所有している。ヴィンテージ物というと高級なイメージがあるが、彼が持っているのは黒木や黒檀などの高級材を用いたものだけではなく、「ホーカーギー(雑木)」を使っていたり、曲がっていたりとさまざまだ。「三線の魅力は、上等とかヤナー(悪いもの)とかじゃない」といい、理屈では図ることができない価値をそこに見いだしている。
福田さんは古三線の魅力について、「人には寿命があるし、車や家などの道具にも寿命があるけれど、なぜ三線は何百年も長く保ち、音を奏でられるのか、不思議です」と語る。一番のお気に入りは「ジュリ三線」と言われる昔料亭などで使われていた三線だ。棹にはひねりがあり、部品に箸などが使われている粗雑なものであるが、彼はその魅力を「かわいらしい」「欲がない」と語る。高級、上等、そういうものとは無縁な、ただ純粋に音を奏でるために作られたような味わいがあるのだそうだ。
これからやりたいことは「古三線の再現」だという。「現在残っている古い棹を修復して蘇らせたい。今は材料も外国などから入ってくるものしかない時代ですが、残された貴重な遺産をまた演奏できるようにして、その音を現代に響かせたい」と熱を込めた。
この島に生まれ育ち、ここに生きている証を確かめるように、福田さんは今日も三線を奏でている。
A、My Favourite(わたしのお気に入り)
最近のお気に入りはレトロな喫茶店で本を読んだりすることですね。なぜだか落ち着くんですよね。那覇の「ローズルーム」によく行きます。
B、My Worktools(わたしの仕事道具)
いただいたボールペンなんですが、書きやすくてとても気に入って使っています。実は三線を修理したりやりとりしたお客様には必ず手書きでお手紙を書いているんです。その時にこれでいつも書いています。
C、My Backyard(わたしのバックヤード)
最近「中国語」の勉強を始めました。やはり古い文献や記録を見る時に中国語の知識があるのとないのでは全然違うと思うので、時々レッスン受けたりして勉強中です。
福田八直幸(ふくだ やすゆき)
沖縄市生まれ。18歳のころより、三線修理・販売業にたずさわる。独立後、三線の装飾品を製作する事業を立ち上げ、現在に至る。2020年には「胴巻屋」を立ち上げ、三線の新しい発展に力を入れて活動中。著書に『古三線に魅せられてー沖縄の三線に込められた想いをたどる』(初版2020年、増補版2024年刊)。