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カート

カートが空です

大城愛香 | つい落書き

大城愛香 | つい落書き

「保育園のころ、みんなで竹馬に乗って園庭を何周できるかの競争をしたんです。ほかの子はどんどん脱落していくのに、わたしだけお昼ごはんの時間になってもグルグルと乗り続けて……。そのときの記録は今でも破られていないと、大人になって保育園の先生に再会したときに言われました」

 そういって笑うのは大城愛香さん。沖縄の豊かな自然をテーマにアニメーションや絵本の制作を行うイラストレーターだ。

 

 

 22歳のとき、大学の課題で制作したサンゴ礁をモチーフにしたアニメーションが国内外で賞を受賞するなど高い評価を得た。サンゴ保全に取り組む恩納村の「サンゴの村宣言」活動にかかわるようになり、シンボルキャラクターSunna(さんな)ちゃんのアニメーションや絵本の制作を手がける。さらに2023年には地元紙の子ども向け新聞で、「島の宝物 ヤンバルの森の仲間たち」を1年間連載するなど、活躍の場を広げている。

 子ども時代から絵を描くことが好きだった。高校3年の夏休みの課題として提出した静物画がコンクールで最優秀賞を受賞したのをきっかけに、英語の専攻科から芸術大学への進学を考えるようになる。高3の秋というタイミングでの進路変更だったが、両親は「ゆっくり決めてかまわない」とあたたかく背中を押した。そこからデッサンなどの勉強をはじめ、 わずか1年後の受験で沖縄県立芸術大学への合格をつかみとった。やわらかな表情からは思いもよらない芯の強さ、根気強さがかいま見える。

 自然の中でたわむれるのも好きだった。小さい頃、祖父母の暮らす奥武島の海で遊んでいてウニが手に刺さってしまい、祖父にトゲを抜いてもらったこともある。引っ越しの多い一家で沖縄の各地を転々としながら育ち、小学1年から5年までは「タヌキが出るような場所だった」という東京の町田市で暮らした。

 海や山がいつも身近な存在だったから、創作のモチーフもずっと「自然」を選んできた。「たとえば生き物の体のしくみがすごいとか、植物のこういうフォルムが美しいとか、自然ひとつひとつに感動がある。その感動を作品に落としこんでいるんです」という。

 

 スケッチブックを開いて見せてくれたのはチョウのスケッチ画。「ナガサキアゲハ 10cm」「リュウキュウミスジ 茶色」。そんなメモとともに描かれたチョウたちはまるで宝石のようだ。

 しっかりと特徴をとらえつつも、愛らしくデフォルメされてどこかユーモラス。そんな持ち味のイラストが評判となり、制作の依頼が途切れることはない。

 

 

 出版社から声がかかり、2024年にはオリジナルの創作絵本『しぜんのつながり のぞいてみよう おきなわという ちいさなしまのおはなし』の刊行も実現した。やんばるの森で駆け回るノグチゲラやイノシシ、サギやシオマネキがくつろぐマングローブ林、サンゴ礁の海で遊ぶモンガラカワハギやニシキアナゴ──。みずみずしい絵とやさしい語りかけで、ページをめくるたびに大城さんが自然から受けとった感動があふれてくるようだ。

 作品はいつも子どもたちに向けて作っている。「自然環境がつながり、めぐりめぐって美しく調和して保たれているから、きみの一日は守られ、安心して暮らすことができるんだよ」。絵本にもそんなメッセージを込めた。

 ある日訪れた沖縄そば屋で店主から「新聞の連載、読んでいたよ、あれ大好き!物語に癒されたから今日はお会計はタダね」と思わぬ対応をしてもらったこともある。「元気になる」「癒される」「何度も読み返している」。そういう感想をもらえるのが何よりもうれしい。

 現在は沖縄県立芸術大学デザイン専攻で助教として働きながら、海や森の生物をモチーフにした自主制作を続けている。いつも題材になることはないかアンテナを張っていて、「日々何かを作るのが当たり前で、作っていないこと、描いていないことがないんです」という。だれかと会話していてもペンを動かしてしまうといい、それではと白い紙を渡してお願いしたらインタビュアーの似顔絵を描いてくれた。

 多忙だが、休みの日にはやんばるへ。自然の中にいると心からリラックスできるという。そして毎朝、近くの海へウォーキングに行き、貝殻を一枚ずつ拾って貯めるのを日課にしている。「これ、砂浜で撮ったんですよ」と見せてくれたスマホの動画には、まるで映画のワンシーンのように、白い砂浜をちょこちょこと歩く小さなやどかりが映っていた。

 創作が好きで、自然が好きで、物語を作るのが好き。将来の夢を尋ねると「おばあちゃんになっても穏やかな生活の中で良質の作品を作っていたいですね」と晴れやかな笑顔を見せた。

 

A:My Favourite(わたしのお気に入り)

 

 

よく行く馴染みのお店は公設市場近くの「イタリア食堂ha-na」。パスタが全部おいしいし、前菜盛り合わせもおすすめ。また糸満に最近オープンした「韓国料理マイ村」や、首里龍潭そばの「カズンズ・スイーツ」も好きです。お気に入りのアイテムは20241月に南アフリカに滞在したときに手に入れた木製のキリン、そして布のポーチ。南アフリカは高速道路を走っているとダチョウが並走してくるくらい自然が豊かで感動しました。

 

 

B:My Worktools(わたしの仕事道具)

 

 

手入れしながら長年使っているのがスカーゲンの時計。薄くて軽くて使い勝手がいいんです。お気に入りの仕事道具といえばiPadとマルマンのスケッチブック。新しく何かを買うときは、すでにあるものとの相性や、長く使えるかどうかも考えてから買うようにしています。

 

C:My Backyard(わたしのバックヤード)

最近一番面倒くさかったのが、大雨の日に職場の廊下で水筒をこぼしてしまったこと。ああ面倒だなと思いながら雑巾で拭きとっていると、通りかかった人に「雨漏りすごいね、拭いてくれてありがとう!」と声をかけられ……。「あっ、これは水筒のフタがゆるんで水が……」と訂正する間もなくさっさと行ってしまったので、ただの良い人になってしまいました。

 

 

大城愛香(おおしろ あいか)

沖縄県生まれ。沖縄県立芸術大学大学院を修了。2024年現在、同大学の助教として勤務。沖縄の海や森、そこに生息する生き物の魅力を、アニメーションやイラストを通して子ども達に向けて(むかし子どもだった大人にも!)わかりやすく伝えることを目標に制作活動を続けている。絵本に『サンゴってなぁに?』『お魚がいなくなっちゃった!』『しぜんのつながり のぞいてみよう』(いずれもボーダーインク)

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民俗学
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稲福政斉(いなふく まさなり) 那覇市出身。沖縄各地の伝統的なしきたりや行事、祭具、供物について調査研究を重ね、その成果をわかりやすく伝える著述や講演活動にも取り組む。現在、沖縄県文化財保護審議会専門委員、沖縄国際大学・沖縄大学非常勤講師のほか、うるま市、沖縄市、北中城村、宜野座村、中城村、宮古島市などで博物館や文化財関連の委員をつとめる。著書に『沖縄しきたり歳時記』(ボーダーインク、201...

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