ミントグリーン
真夏の西日が差す頃に、やにわにスタッフの久保田さんが事務所を飛び出し外に駆けていった。急なことにびっくりして声もかけられず、パソコンのモニター越しに呆然と眺めることしかできなかったが、ミントグリーンのバケツが事務所の前に転がっているのを拾いに行ったようにみえた。
私も手伝おうかと、立ち上がって事務所の外に出ようとする。そして気付いた。バケツか何かと思った、それはランドセルだった。ランドセルの持ち主は小学生の女の子。横断歩道が赤信号になる前に、急いで渡ろうとして転んでしまったようだった。しばらく起き上がる気配さえ見せなかったので、心配になって久保田さんは飛び出していったのだ。
日差しがジリジリ照りつける中、女の子は泣きもせずうつむいて痛みをこらえるようにじっとしている。気の毒に思い、クーラーの効いた事務所へ招き入れて、傷口を洗いながら声をかけるが、女の子はただ黙ってうなずくだけだった。
少し落ち着いた頃に話を聞くと、家はここのすぐ近くらしい。何かあったらまたおいでと、缶ジュースを手渡し送り出したら、振り返りもせずに、すっと帰っていった。それから数日がたち、私たちがたまたま事務所の外で立ち話をしていると、遠くに鮮やかなミントグリーンのランドセルが揺れているのが見えた。あの女の子だ。彼女は私たちに気づき、笑顔で手を振ってくれた。あの日とは見違えるような晴れやかな表情、まるで映画のワンシーンのような、心温まる一度きりの出会い。
女の子のピンチにすぐ気づき駆け寄った久保田さんの目配りと瞬発力にもひたすら感心する出来事だったが、しかし、果たして私が倒れたときは同じように助けてくれるだろうか、小さな不安も残った。