知っておきたい、琉球ガラスの基礎用語
沖縄の旅先で出合う「琉球ガラス体験」。色彩豊かで、どこか懐かしさを感じさせるそのガラス器には、職人たちの知恵と感性、そして数多くの専門的な言葉が詰まっています。少しでも用語を知っていると、琉球ガラスや琉球グラスに触れる際の理解を深め、体験等また違ったものになることでしょう。
原料や素材にまつわることば
珪砂(けいしゃ)
ガラスづくりの主成分。沖縄では、主に本部町や名護市周辺の浜辺で採れる白く粒の細かい珪砂が使われます。この地域の珪砂は不純物が少なく、溶かすと澄んだ透明感が出やすいのが特徴です。そのため、琉球ガラスに特有の清らかな光の透過性を実現します。細やかな粒子は成形のしやすさにも寄与し、職人たちの手仕事を支える大切な素材となっています。
ソーダ灰
加熱を助けるアルカリ性物質。ガラスを溶かしやすくする縁の下の力持ち。
石灰
ガラスに硬さと耐久性を与える安定剤。透明度にも関わる重要な素材。
カレット
再生されたガラス片。環境配慮からも注目され、琉球ガラスの約3割がこの素材から生まれる。
ソーダ石灰ガラス
琉球ガラスの基盤をなす一般的な組成。軽やかで扱いやすく、色ガラスとの相性も良い。
つくり方と道具にまつわることば
ポンテ竿(ポンテざお)
ポンテ竿は、成形中のガラス作品を吹き竿から切り離し、口元を仕上げるために取り付ける鉄製の棒です。主に吹き竿で成形したガラスの底面を完成させた後、口元の仕上げ作業に移るために作品をポンテ竿に移し替える工程で使われます。熱く柔らかいガラスを移し変えるには高い技術が求められ、ポンテ竿への移動時にガラスが崩れないよう、手早く正確に行う必要があります。ポンテ竿は、ガラス制作において作品の全体的なバランスと美しさを左右する重要な道具のひとつであり、職人の技量が問われる工程です。
吹きガラス
高温で溶かしたガラスに息を吹き込んで成形する技法の総称。動きと偶然が形を決める。
宙吹き法(ちゅうぶきほう)
型を使わず、空中で自在に形をつくる。職人の経験と感性が命。この技法は、グラスや花器、ランプシェードなど、独創的で個性的な形状を必要とする作品によく使われます。たとえば、ガラス作家・奥原しんこ氏による自然のうねりを思わせる曲線の花器は、宙吹きの柔らかい表現力を最大限に活かした作品として知られています。
型吹き法(かたぶきほう)
金属や木の型を使って整った形状を再現。量産にも向くが、技術の繊細さは変わらない。この技法の利点は、同じサイズや形状の製品を安定的に作ることができる点です。家庭用のコップや小鉢など、日常的に使われる器の制作によく用いられ、手吹きながらも実用性の高い製品が可能になります。また、型を活かした繊細な模様づけなども行えるため、装飾性にも富んでいます。
吹き竿
息を吹き込むための鉄製パイプ。ガラスと人とをつなぐ道具。
坩堝(るつぼ)
ガラス原料を高温で溶かす耐火容器。窯の心臓部。
徐冷窯(じょれいがま)
成形後のガラスをゆっくり冷やすことで、急冷による割れを防ぐ。見えないが極めて重要な存在。
色彩や表情にまつわることば
基本色(オレンジ、茶、緑、水色、青、紫)
沖縄の風景を映す定番の6色。金属酸化物で発色される自然由来の美。
着色剤
コバルトやクロムなどの金属酸化物。職人の調合センスが色合いを決める。
気泡(バブル)
戦後物資不足の中廃瓶などを利用していたので、琉球ガラスの原料となるガラスに不純物が混じりることから、気泡が生じていたのですが。それを琉球ガラスの特徴として職人たちの試行錯誤のうえ、現在ではその気泡を意匠として積極的に活かす技術が確立されており、職人が意図的に気泡の入り方を調整することも可能です。
琉球ガラスづくりの流れにまつわることば
溶解
素材を約1,400℃の高温で一晩かけて溶かす工程。美しさの始まり。
成形
竿に巻き取り、息を吹き込みながら形を整える。全身を使う瞬間の連続。
仕上げ
口元を滑らかに整えたり、全体を磨く最終工程。完成度の鍵を握る作業。
冷却
急激な温度変化を避けるため、徐冷窯で一晩以上かけてゆっくり冷ます。
歴史や文化にまつわることば
再生ガラス
廃瓶や蛍光灯、古いガラス器など、さまざまな廃材を原料として再利用したガラス素材。これらの素材は元の色や成分を活かして溶かされるため、独特の色むらや風合いが生まれ、ひとつとして同じものがない味わい深さが特徴です。再生ガラスを使った琉球ガラスには、グリーンや琥珀色、時には淡いブルーなど、自然に近い色調が多く見られます。廃材の再利用により、資源を無駄にせず自然環境にも配慮したものづくりが実現されています。
伝統工芸品
1998年に沖縄県指定の工芸品に認定。琉球ガラスは、戦後の沖縄でアメリカ軍から払い下げられた瓶を再利用する中で独自のスタイルを育みました。資源の乏しい島で生まれたこのガラス文化は、素材の再生、色彩の豊かさ、手吹きによる柔らかなフォルムなどに特徴があり、沖縄の風土や精神性を体現する工芸として評価されています。地元産の素材と伝統技法を活かしながらも、時代とともに進化を遂げてきた点が認定の背景にあります。
琉球ガラス体験
観光客にも人気の実演・制作体験。例えば、読谷村にある「琉球ガラス村」では、宙吹きによるグラスづくりを体験することができ、自分の息で生まれたガラスがどのように形作られるかを実感できます。また、那覇市周辺の工房では、色ガラスの装飾や気泡の入れ方などを選びながら制作できるプランも。言葉を知れば、手にするガラスがもっと語りかけてくるでしょう。