知っておきたい、やちむんと陶器にまつわる基礎用語
成形・土台に関する用語
荒練り(あらねり)
粘土中の水分や成分を均一にし、外気と馴染ませる初期作業。未精製の土を粗く混ぜることで、可塑性の基盤を整える。後工程における粘土の反応性や耐久性を左右する。
菊練り
回転運動により螺旋状の力を加えて粘土内の空気を抜く技法。断面に菊花状の模様が現れることから命名。陶芸における気泡除去と粘土構造の整合性維持に不可欠。
乾燥
成形直後の陶胎を常温で徐々に乾燥させる工程。水分の不均等な蒸散は「ひび割れ」や「反り」を引き起こすため、環境制御が重視される。
素地(きじ)
焼成前の成形済み陶胎。生素地とも呼ばれ、物理的強度は弱いが造形と装飾の決定段階であり、陶芸の「原型」としての重要性を持つ。
装飾・技法に関する用語
上絵付け(うわえつけ)
本焼き後の素地に絵の具(主に酸化金属顔料)で模様を描き、再度低温焼成(約700〜900℃)する工程。彩色が鮮明に発色し、装飾性を高める。
かき落とし
白化粧土を塗布後、針や竹べらなどで意図的に模様を削り出す加飾技法。陰影と線描による絵画的表現が可能となる。
イッチン(筒描き)
スポイト状の道具で化粧土や釉薬を絞り出し、立体的な線描を施す技法。イスラム陶芸に起源を持ち、琉球陶芸では筆致の自由さが好まれる。
印花文(いんかもん)
木製または素焼きの型を用い、粘土表面に文様を押印する加飾法。連続模様や草花文様に多用される。朝鮮・中国陶磁の影響を受けて発展。
貫入(かんにゅう)
釉薬層に形成される細かな亀裂模様。陶胎と釉薬の熱収縮率の違いに起因する。装飾性と経年変化を併せ持つ自然現象として珍重される。
材料・釉薬に関する用語
釉薬(ゆうやく/うわぐすり)
焼成時に陶胎表面を覆い、ガラス化することで光沢・色彩・耐水性を付与する溶液。長石・灰・酸化金属などが主成分で、焼成環境によって多様な景色を生む。
化粧土
白土や赤土などを水で溶いたスリップ状の装飾材。素地に塗布し、地色や質感の変化、下地処理としての役割を持つ。琉球の白化粧は柔らかく温かみがある。
カオリン
陶石の一種で、白磁や硬質陶器の主原料となる鉱物。高耐火性・白色度の高さが特徴。古来より中国景徳鎮に由来し、世界中の磁器生産に利用されてきた。
焼成に関する用語
還元焼成(かんげんしょうせい)
酸素供給を制限した窯内環境で行う焼成方法。酸化物が電子を得ることで、釉薬や土の色が変化する。鉄分が青黒く発色するなど、深みのある表現が可能。
酸化焼成
酸素を十分に供給した状態で焼成する。安定した発色が得られ、白・赤・黄など明快な色彩が多い。釉薬の透明感を活かした彩色に適する。
窯変(ようへん)
焼成中の温度・酸素濃度の変化や釉薬の流動によって生じる、意図しない色や模様の変化。窯の内部環境が「作品の共作者」となる代表的現象。
器の構造に関する用語
高台(こうだい)
器の底部に設けられる円環状の台座。安定性と持ち上げやすさを兼ね、視覚的重心にも関与する。形状や削りによる装飾も多い。
口縁部(こうえんぶ)
器の開口部の縁。手触りや液体の注ぎやすさに影響を与える機能部位であり、装飾意匠のアクセントにもなる。
胴(どう)
器の中腹に位置する部分。体積的な容量を担い、絵付けや装飾の中心となる面でもある。
見込み
鉢や皿などの内底面を含む内側全体。使用時に最も目に触れる空間であり、文様や釉薬の景色を堪能する視点でもある。
状態・経年・修復に関する用語
瑕疵(かし)
製作過程または保管中に生じた微細な欠陥や傷。評価や取り扱いにおいて区別される対象。
窯傷(かまきず)
焼成時に発生する表面の不均一性。完全性を問わない美意識においては「味」として評価されることも。
ホツ・カケ
口縁や高台にできる小さな欠け。使用上は問題ないことが多いが、美術的評価には差異を及ぼす。
ニュウ
釉薬層から胎土にかけて入る亀裂。貫入とは異なり、経年劣化や衝撃による内部損傷が多い。
ソゲ
釉薬や素地の表面が薄く削れたような摩耗痕。取り扱い時の摩擦によって生じやすい。
釉切れ
釉薬が一部に掛からず、素地が露出している状態。意図的な装飾手法としても見られる。
直し・金継ぎ
破損部分を漆で接着し、金粉などで仕上げる修復技法。傷を美として再構築する日本独自の美学。
その他の装飾・形状・民族器名
景色(けしき)
焼成中に偶発的に現れる色彩・釉薬の流れ・炭化模様など。器に唯一無二の表情を与える美的概念。
マカイ
沖縄における飯碗・どんぶりの総称。日常的器物として生活に密着している。
抱瓶(だちびん/だびちん)
泡盛を入れて持ち運ぶための容器。両側に耳が付き、紐で腰に下げる形式を持つ。
カラカラ
泡盛を注ぐ小型酒器。中に玉が入っており、空になると「カラカラ」と音が鳴る。
嘉瓶(ゆしびん)
祝い事の贈答用に用いられる瓢箪型の瓶。儀礼的意味合いが強い。
チューカー
お茶や酒を注ぐための急須型の器具。口の作りや取手の形状が個性的。
やちむんの種類と代表技法
荒焼(あらやち)
釉薬をかけずに焼成された素焼きの器。保存容器や酒甕に用いられ、土の風合いが直に伝わる。
上焼(じょうやち)
釉薬を施して高温で焼き上げた食器類。色彩や絵付けの表現力が高く、装飾的価値が高い。
魚紋・唐草模様
沖縄の自然(魚や植物)をモチーフにした伝統文様。豊穣や繁栄を象徴し、器に命を吹き込む。
六古窯(ろくこよう)(参考)
日本六大古窯として瀬戸・常滑・信楽・丹波・越前・備前が挙げられる。沖縄のやちむんとは技術や背景を異にするが、相互参照に値する。